第四話    宝達山の強奪

幕前書き

合理の化身、嘉麻戸七。
絶対矜持主義、振飛。
二人は船の上で揺られていました。
船の向かった先は能登半島のうなじ。
今しがた羽咋の沖合いに着いた所です。
深い夜に、夏の海上から。
お話が始まります。

1/4
金輪際の船頭

虎の刻か丑の終わりにさしかかる頃。
合理と潔癖は航海の末に金輪際。
目前に夜の羽咋港を臨んでいる。
ギキィーグクククククククク塩漬けの木樽と。
眠ること位、なんてことはない。
ギキィィィーグクククク眠れるわけないよ。こんな揺れて。ギキィーッッーッオロ。カ。う愚かな。うっ。
うう、人は万ぶ。。つの。。
霊ィおおおおうえ。。。
すんっ。。。すんっ。。。
液状に混ぜられてしまった平衡。
船先はあかべこ。
ゆさゆさと首を揺らす。
苦悶する顔は赤く、
手をつけば四足に成り下がる。
あたしもあかべこ。
ユサユサと頭だけ揺れる。
「あかべこ」が全くの無関係であるはずがない。理路は整然とせず、  ふんにゃあ心経。
よし。よし。
そのままでいてくれよ。
生き荷が無力化した事実に唐賊の男は胸を撫で下ろす。まだらに聞こえる声は呪詛、いや読経か?和人の娘はネズミの声真似を仕掛けては、驚天に飛び起きる自分をからかう余裕があった。踊る海面に干渉させない重心は不動。釣り鐘のようだった。
漁家系の娘かと。
しかし、見ろ。巧みな擬音で不眠の計を謀り、単騎で乾き物戦争を敢行する食い意地もこの荒波には崩れた。じきに港につく。これで角成と交わした取り決め。亡命の約束だ。このまま隠匿幇助の条件を取りきる。船旅が終わる。全身のありとあらゆる古傷を鳴らしながら、海上を浮かんでは落ちる。
ここは能登半島 - 羽咋港(ハクイミナト)の沖合。
サァァァァ.........
ギキィィィー.........
夜風。潮風。
穏呑と不穏の瀬戸際、
振飛は船の甲板で独立。
彼の見据えた先の小舟。
反芻される円卓での回想。
「深刻に思わずともよい。振飛。
片時も逃さぬなどと気張る必要はない。あの子は幼くも聡い虎の子。
手綱を握れるとは思わぬが、ただしー。」
角成様をもって制することは至難とか。その、続く言葉もさることながら。手綱はどちらを指されていますか。
目下にて測鉛と報告を繰り返す賊。
その手綱か。
「砂ァァァ!!砂ァァァァ!綱中ァァァ!」細き綱は主に告げ口するように見えない底とを往復している。
対して、それは。
とぐろを巻いた錆色の大蛇。
「オラァさっさと投げろぼんぐらァ!」激昂の指示に舌打ちの錨役。ドッッッッポ。暗い水がそれを食らう。
後続の暴れる黒縄は激流、跳ねて打ちつける甲板を削り、底まで穿てば、舟は根をはる。こっちの極悪は触れた部分を削除する。
この手綱か。「オラァてめぇ修理の金はもってんだろうなぁ」投下がずれた事を咎める上位の賊だが、その男の注意は的外れの肩越し。いや、それは加速する生き荷に注がれる。影が吹くと風が走り、
嘉麻戸は迎えの小舟に跳ぶ。
着弾するなり、空気に触れる船底だったが恐らくは船頭の腕でなんとか持ち直す。
危険にさらされたはずの小舟の男に怒りが見えない事を船上から見てとる。違和感も束の間に合点がいく。眉を上げ、口をすぼめて、丁寧にそろり。賊はそれぞれ甲板から強面をおしなべて、身を乗り出しては吊りさげた一俵の米俵を睨む。波に揺れる小舟は近すぎる。
アザを作りながらも。
飯の種が横転しかけても。
執念の捕手役が俵を体で留め受けた。
バハァァアーゥゥ.......ハァァ.....!!!!
ハァ.....! フゥ、フゥ。フゥウウウゥ......!
弱み辛みを卓に置かれては命懸け。俵は投げ入れる事ができない。結果しか角成様は見ない。黒色火薬の米俵。

2/4
行進と交信

羽咋から西の広陵には雑木林しか見当たらない。
闇に浮かぶ海産物の亡霊達はキリコの宵祭りへの奉納を装う。土を踏む荷車は軋む。雨を含む土壌、曳けば苦重の神輿並み。過重の甘味すら嘉麻戸は感じていない。
登っては降りてを繰り返し、遂には鬱蒼陰気な道の終わりが見えた。
永き旅を共にした大蛸、
茹でエビ、大漁旗だったが、
着くよりはるか手前で、
茹で海老は鞭を打つように後ろ跳び。エビの手引きはさっさと海に還った。
到着即納品の構成。
いや。なにか。
色目でもなければ、注意する気配もない。この大蔵の痴れは何を目当てに自分を凝視する理由があるとゆうのか。走る思考とは別軸の駆動。淀みなく荷をおろす嘉麻戸の一連には一切の停止が起こらない。
その廃れた小屋は見た目に反して屋内は悪くない。
敷地随所に仏門仏閣の痕跡。
前歯が一本残った間抜けな戸口。
知謀の言葉の一端がフゥッと風に乗り、押し入る。
「ただし、虎にも得意があるように。」
角成は確約の声音をもって発する。
「手綱は取れないが、荷運びに関しては嘉麻戸に全幅の任とすべき。」と続いた。その際、振飛には解せなかった。知の極みに珍しき誤認とさえ。
しかしどうか。
荷の扱いは多重に経験を積んだそれ。別人かと思う洗練は、水と油の融解。月と太陽の共演。本来、備わるはずがない不自然。普段の思考は即決短絡の野生。だが、荷運びに関しては全く。熱した鉄が複雑な雛型を流れては象る。
美麗。それは重量別に層を成しては。
流麗。狭い戸口を悠々とするり。
荷は滑るように流れ、収まる。
華麗。設置の順は論理の顕現。
不揃いを廃した幾何学的な美が内在している。
誠に感心する。嘉麻戸は視線に気付かないふりを続けながら、緩和した際には最後の俵に祭りの面をすべらせた。再起の荷車を隠して一息ついた頃。男が湿度高くこちらをみている理由が「滑らせたつもりの隠密用が壁まで飛んでまっぷたつに割れた事」である事を知る。
不注意には感心できない。
この静音の廃屋には数日潜む算段。
山村からは遠く、隠密に適している。夕暮れ時までは旅の疲れが眠気を淹れた。
恐らくは若衆鉱夫だろう。
"宝達鉱脈の使いです。頭にいわれて。どうぞ。"
手配された生命活動の維持。
大蛸の面の男と、割れた大漁旗の面を着けた女を見る若人は一瞬の間を作った後。滑るように、
"それでは失礼致します。"
そそくさと戸を閉めては去る。
小娘は嬉々として、かたじけないの。などと取り繕った声で感謝の意を述べていた。
忘却したように、当方の煮魚を見つめながら、問われた。
「港の。お館様だよねあれ。」
人気のない港に似つかわしくない人影。大柄の男が何か喚いては泣いていた。
正確には男の腕の先につく藁人形。
それは至極早口な悲鳴をあげて
落とすな落とすなと懇願していた。
嘉麻戸に合意した。
港の外れ、現地の黒色俵は真逆の導線。それは闇に紛れて回収を完了している。
「なんで?」「もう、慣れている。」
悔しさと諦念の色調。
「ああゆう人だ。」
悲願念願にあらば尚更に。
その目でみたいのだ。
仏頂面に戻ると同時。
そろり伸びる箸を、箸で打った。
ー警備頭。
ー金物爺。
日が暮れる。
嘉麻戸が土間の一角に居着く。
不侵に留め置いただろう。
これが不寝の番でなければ、
二重の目蓋を閉じているから。
「おい嘉麻戸。寝るな。」、
ーこれを発する事はなかった。
実際に発する直前、間髪に刺す牽制。
無音の恫喝が振飛の額を射貫いた。
「.........................。」うつむいた伏し気味の相貌に鋭利な意を宿す双眼は玉剣。鱗の鈍く強い光。
深く沈んだ黒。獰猛にこちらを見る。
これを蛇に睨まれたと言えば、蛙になるが。
裏稼業に生きた、長浜の屑を殺った修羅場。
死せど結構、全存在は賭けた。
その自負の喉元。
己の背に走る玉のような冷や汗は速い。
適任。それは任せるに適した人間性。
ただの荒くれに備わった矜持。
潔癖性破滅主義に宿した多層の感性は、
孤独に蒼く、善悪を問わず、
その道を進んだ純然な光を。
愛されることを知らない野良を。
同心として、父性の如く労る事と決めた。
適任。それは野生の中の闇に落ちた雨粒。
宵闇の如き瞳は静かに矛をおろしては、目の前の土間を刺したあと。黒きそれは奥に潜んだ。
それを見た後、壁から床に背中を移し仰向け。
明白にもこれは生涯最重の大仕事。
無防備にも眠りこけた。
最も適した者に全て任せた

3/4
狐面のハカリゴト

あからさまに笑うのをやめろ。
不本意なのだ。彼らも。
宝達坑夫の若衆も血の気が荒く。
そして、恐らくはお館様の読み通り。
火山性のそれよりも、遥かにたちの悪い空気。  鬱憤は死火山ではないと見える。
振飛と嘉麻戸の両名は不気味な虚仮面により、その身分を隠す、はずだった。徳納会館の立て札を見るなり、ひっひっひっひと娘が笑えば、それには面白くないとばかりに坑夫の者が殺気立つ。宮大工の彫にして細やかな豊漁の意匠。雅の代償に、半面しかのこらなんだ。面を押し付けた小生の判断に後悔はない。
やはり頬の十字傷を見せるべきではない。
相貌失認症を利用した隠匿の計では、人相書き発行こそおさむるが、ソレはお館様を守る撹乱にすぎず。戯けの人外には関係がなかった。
この様ではいけない。
半面強使。あえて、声も残す。
「おい。」
角成様のゆう亡霊は、
「次だ。」
声すら不知に留める雲隠れ。
「。。。御意。」
嘉麻戸の声は謀り事に充分な理解を示した仮初の低温。吉報、こちらを睨む目は回答。笑い声だけなら、紐付けは困難。
ーこの、死にたがりが。
ー既に割れてるからかな?面が。
ー矜持だよ。
ー?
関係性は変わらない。とはいえ、"運ぶ者"よりは拙者の方が安いことに代わりはなかった。
権力の中枢からひいで、伸びて伸びた影が。
足元につくころに一変する景色を。
想像を絶する人の闇を小娘は見てなお、等量の光を帯びては、闇のように人を食らう様を見た。
「楽しみなよ。兄さん。」嘉麻戸が去り際に落としたそれは、怒気の滞留を吹き飛ばし、死の気配を注ぐ先見の闇。演技をやめた七の地声には致死量の皮肉。「ぐっ。」若衆にとっては、キリコ祭りを指した意味合いにも取れたが、漏れでた必殺の雰囲気が昂る男を原始に送り返した。最後の俵を組合所におろす嘉麻戸が怪訝そうな顔をして、俵に蹴りをいれた時には意図せずして声を荒げた。配送を終え、再び隠れ家に戻った頃。
間抜けな戸口。色褪せた廃屋。
橙色に褪せた木材と、
雑木林に侵食を許した空き家。
仏鐘が無事に朽ちている。
権力の外で鳴りやんだ。
開けた敷地の奥。
狐面がこちらを見据えている。
わかってますとも。
ここからは我々二人は意思無き亡霊として、ただただ、不憫な酒蔵を見定めましょう。
返す念を受け、振飛から外す。
無事でなにより。こちらもじきに終わる。
古びた小屋で計画が進行している。
うなだれる高木寿一朗。
「無益な戦だと思わぬか。」
肱川扮する徳川役人の使いが諭す。
「ううぅ。。。」なんだってんだ。その暗穴は。
狐面の奥の瞳を直視できない。
面の奥の亜空。知りたるは死に至る。
愛に満ちたような論調と、
冷酷な乱暴はどうしても別人。
混ざりに抗う坑夫は久しからず、流石の高木も死神の前ではうなずくしかなかった。
「高木殿。貴殿が忠誠を誓う主君は今。何を為さっておいでか。」
それは狐の触診。
沈黙は密使の言葉を肯定していた。
「関白様がどのような末路を辿られたか、この能登まで届いておりますか。」
傭兵の荒れがよぎるが、可愛いものだ。
あの痴れ者とは異なる類いの化け。
「いや。」
否定の肯定文。
高木は続ける。
「あんたの覚悟は見させてもらった。」
藁人形ではない。アレで港の覇者。
狐の巨躯と比べればの話だ。
首根っこを捕まれた羽咋の狸爺は三途の蛇口が壊れたように、泣いて喚いた挙げ句の果て。
埠頭で気骨を抜かれ、大の字に押し黙る藁の人形。
狐の恐ろしさは散々に染みた。
「明の賊も。南蛮も。まずは貴公を通す手筈で進めています。村を豊かにしなさい。」
港の利権は組合の希望、俺は売った。
文官。猛将。墨汁色の慧眼。
混ぜるな危険。本多の密使。
触れぬ神。
夕刻の廃屋。
薄気味の悪い海産物に、怪狐は
「して、ゆでダコの者。一番重い俵は確かに高木様の元に届けましたか?」
ーなに今の。
ー今は役人。徳川の。
「左様で御座います。街道から最も離れたそこに。」「...........。」「......上様のお膝元に無事に納めた後に此処へ参りました。」ーうへぇ。
ーククク。
「高木殿。この一際に重き俵に我々の愛心を込めては、しかと貴殿に収め申した。些事に。」
これで、第三会館に留め打ち。
高木の首に錆色の錨。明確にはゆわぬまでも、理解らされた。是非もなく「些事に。」、扱うべからず。
合意んに首を揺らせば、
ゆらゆらとまるで。
手前は、惨めなアカベコ

4/4
可燃の竜と不燃の王

怒気は木々が全て吸った。
「おおおおおお!れはあああああ!」
足が見えない。
ゴオオオオオオオオオオオオ......!!!!!!
「おまえええええええ!!!」
ーオオオオオオオオオ...!!!!
もう助からない。
一人を呑ませ、口火を切った脛椎をもう一人。
祠の発火役に肉を投げつけた金輪際の呪い。
"嘉麻戸の「重さ」に対する理解は深い。"
ゴォオォオォォォォァゥウゥ....!!!!!!
有無をいわさぬ土石流。猛り狂う憤怒。オオゥオオオオオオオオゴォオォオォォォォァその重さがその巨きさが巻き込む轟音の意味合いーオオオオオオゴオオオオオオゴオオオオオオオオオオオオオー....!!!
オオオオオオゴガゴゴゴゴゴゴゴッ....!!!!ーあぁ。許さないだろう。
ーだよ......ねって。あああ?!
ー?
踵を返す背の向こうの竜は万物をくらいつくしながら、掃き殺しては呑みつづけ、山を食らう。目下冤罪も冤罪ではあるが。それと。オオオオオオオオオオオー有機ーオオオオオオゴー無機ーオオオオオオオオオオオオオオオオオ"その全て"オグォオオオオオオオオオオゴゴゴゴゴォ、因果関係に在らず。面を素顔に当てるゆでダコは共食いを算段している。頑固垂れの失敗があれば、それを許さず運びを調整、さしあたっては、殺す前に出店屋台の有無だけでも聞くべきであったと声をあげて悔しがる。夜が明ける前の漁師町に宵祭りの後遺症。
今日はこの町に火消しは居ない、名乗りでない。
「気をつけなさい。」
子は光。これはいつも光で在る。
「........はい。婆も。」
愛おしくないわけがないちゃ。(あああああ!!!!)
.....酒の香り。砂を噛んだ不快と。
鉄?これは鉄の香あァぁ!!足がァ!!!!
オオオオオオー頭の位置なんて婆もとうに越したしーグオオオオオオオオオオオオオオオ爺も笑ってみている。任せてほしいから。誇らしく。オオオオオオ.....!!!!!!!ゴオオオ(こんのっ!)オオオオオ思って欲しいからオオオオオオオ痛い痛い痛い痛あああああああ...!!!!!!!!殴って吠えて、俺は火護の役目に着いたのだから。
ゴオオオオオ(糞!糞!糞!)オオオオオオオオゴオオ(もう。)オオオォゴゴゴゴゴゴ(見え、な)ゴゴゴゴゴー、........ーーーーー。..........ーーーー。
静寂の塗り替えは火も光も残さない。
空気が動いていない。
穏やかな夜に、山鬼を初めて見た。
初夏の森は鬱陶しい湿気を孕む。
振飛に備わったものを神性視する者は多い。震えているか。無理もない。
どう思った掘りもの屋。恐らくは日頃からやってたな。躊躇なく致死まで最短。喉元狙いがあまりにも堂に入っていた。港の育ちなら当然。
「カッ。。。フゥ。。フゥ。。。」
落とした得物を握る手は赤子。眼力は虚勢。
「そうやって振る時は当てろ。」
胸を抑えては立てないでいる。
ーーーンンンンッーーーッ。
後頭部に届く轟音は肱川様。
嘉麻戸の弱気な背中、枚挙に笑えた。
そのまま暗がりに消えた千両役者と火付け奴隷。
「カッ、あっ、なぁ、あ、あんたっ、、、。」
いや、こういう時は死ぬ。ほぼ死ぬ。
首の本来は玉座。だがこれは猫の持ち方。
「突け。今度は。な。」
喉仏の玉将に木を鳴らした音が響くと。
幸運にも痛みが先に彼の意識を奪ったとみていた。
嗚呼、捺。遠退く意識の中に落つ。
「これで命落としてたら世話ねぇやな。」
高木殿の様子もおかしかった。
「潮目、潮時って言葉はよ。荒くればかりの男がよ。いきりたってぇしようがねぇけん、こんな言葉ばかりが生まれちまうんだで。なぁいいちゃ?捺。
火が消えん。あんばがつけたんやから、今日は許してな。」
突然、外から若衆の一人が吠える。
「朝っぱらから盛ってんじゃねぇ」
とんだ火消しがいたもんだ。捺には納屋で待つように。
組合所に煙管があらぁな。
「おい、お前ら」
目を返した組長はうつ伏せに死んでた。
糞が、面を捨てた鬼から目を離せない。
俺を道連れに選んだ戯けはどこだ。
彼奴は組合の人間ですら。
捺の絹肌に戻れない。
いや。生きる。
この歩荷運びだけ。隙だらけのタコだけが糸口。
文禄の六年、初夏の能登。切子原祭の当日、羽咋の外れ、敷地の一角。
「たこ。」
嘉麻戸が顔を上げる。
「えび。」
お館様の声色は開始を示す。
廃屋の中。雑木林の青色の風音。
嘉麻戸、振飛、肱川守。
それぞれの面を手に取る。
夜明けまで一刻程。
仄暗い仏門家屋の土間に足された黒色の一俵。
わざわざ、早馬で持ってこられた意図は、
万が一を消すそれに違いない。
発せられる。
「ここは狐らしく。鼻でも摘みにいこう」
逸話と動詞で遊ぶお館様は、指示も聞かずに始動する嘉麻戸を止めない。
再起した荷車に運び込む様に迷いなく。
ただし、続けた狐面の一言には、
「嘉麻戸、弱者を演じておくことが肝要と心得よ」
不意を覚えたようで、
「承知致しました。」
不可解であるから、思考を継続している様子。
どぶろくと潮の香り。
路地には酔いどれの禄でなし。
微動だに動かない様を横目に、亡霊達は街道を滑る。
納めるならば、徳能の暖簾は迎え入れる。
「あんた。いや、檜山様。」
彼奴は律儀な男である。見張っていたのだろう。
心底憔悴したような眼の弱気。
檜山と名乗っていたお館様。
声色は明るい。
「高木殿ォォ!!これはどういった事ですかなァ!!!!」
怯えを見せた高木の奥から坑夫若衆が顔を出す。
どぶろくをしこたま開けたのであろう、これらは木偶。
「な。な。」
群雄の狼狽ぶりに目を皿のようにする宝達の若衆。
「高木の。やはり御上の読み通り貴公の配役は棒銀。」お館様はなにを。言って。「たこ。」
肱川のこれを掛け声と知るのは、
オドオドと俵の横に棒立つ嘉麻戸から。
そう。蹴りを咎めたばかりであるから。
鋭くおろすそれは横腹を用意に蹴り切る。カッさざああああああ...ぁぁぁ.....嘉麻戸が開いた黒色俵に思考が追い付かない。さあああぁぁ、ぁ、さっ.....種籾のついたそれは火薬ではない。拙者の口が開き「なにを」これを発する前に。
高木の怒号が書き消す。
「檜山ァァァァァァ!!」
これは昨日の男ではなかった。
激昂。死を悟り命を奪う覚悟の出来た雄。
死に急ぐ形だが、お見事。
統率されれば指示は不要である。
先頭の小太刀を受ける、も殺す。
掴んだ次蜂の金的も受けた、が殺す。
肱川様を背に置くと長浜殺戮を思い出す。
某だけが背中で聞き取った主の興奮。「祭り。」ー.......光と呼べるだろうか。
あんっ。
おい、捺。
ああ、あ、あああああ。
あああんっ!甘い声を梁まで。
鳴くように張り上げた女と。
「おい餓鬼コルァ!!!!」
唸り声は性視する町のガキを制した。
ー........光のままでいられるだろうか。
チチチチチッ。
雲雀の挨拶は吉兆。
「正信殿.........。」
爪の甘さに梟の隠密は嘆く。
拾いあげた木面の片割れ。
割符つもりなら、否む。
「罰符罰符罰符罰符罰符罰符。」
黒色の籠手に下がり藤、
白鶴の片翼。
放棄した古巣。
藁の欠片。
割れた大漁旗の片面。
虚空を睨みつけていた。
彼は天上へ昇る竜神の知宝。
ー........光のままでいられるだろうか。